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2-35 明日香の不在の夜 1

last update Last Updated: 2025-03-13 21:11:04

結局、この日朱莉は明日香と翔の件ですっかり落ち込み、食欲が薄れてしまい折角の魚料理をあまり食べる事が出来なかった。

エミは折角の料理だからと言ってお店の人にコンテナボックスを頼み、今夜のおかずにするから気にしないでと言って笑ったが、朱莉は申し訳ない気持ちで一杯だった。

「本当に折角連れ出して貰ったのに、申し訳ございませんでした」

ホテルまで送って貰うと朱莉は何度も何度もエミに頭を下げた。

「あら、いいのよ。全然そんな事気にしないで。それにしても本当に大丈夫? 顔色が悪いから心配だわ。そうだ! 何か栄養のあるものを後で届けてあげるわ!」

「いえ、そんなそこまでしていただくわけにはいきません。エミさんも今日は私の事は構わず、お休みください」

恐縮する朱莉。

「何言ってるのよ、アカリ。夕方6時に迎えに来るわよ。2人で出かけるからね」

「え……ええっ!? 出掛けるって……一体何処へ!?」

「アカリはまだ若いんだから、もっと羽目を外すこともするべきなのよ。いい? 18時にホテルの部屋に迎えに行くから、体調管理をして待っていなさいよ? 約束だからね?」

エミは朱莉に無理やり約束をさせると、車に乗って去って行った。

****

ホテルの部屋に戻り、ベッドに横たわると朱莉はポツリと呟いた。

「ふう……エミさんて意外と強引なところがある人なんだな……」

でも、正直嬉しかった。まだ会って数日しか経っていないのに、明日香の前に立ち塞がって朱莉を守ってくれたこと……。あの時、本当は涙が出そうに成程朱莉は嬉しかったのだ。

(本当は欲を言えば、翔先輩に庇って貰いたかった……)

でも……それは夢のまた夢。鳴海翔の一番は高校時代から常に明日香だったのだ。今更と言われても、どうしても朱莉は期待してしまっていたが、その結果は……? 翔は朱莉を見る事すらしなかったのだ。

「もう翔先輩には何も期待したら駄目なのかな……?」

朱莉はいつの今にかそのままベッドの上で眠りに就いてしまった—―

****

その頃、明日香と翔の部屋では――

「悔しい!! 何故私がたかがガイドごときに馬鹿にされなくちゃならない訳!?」

高級ブランドのショルダーバックを乱暴にベッドに投げつけた。

「おい、明日香! 少しは落ち着けって!」

翔は明日香を宥めるのに必死である。

「煩いわね! 元はと言えば翔がいけないんでしょ! 突然あのレスト
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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第3章 九条琢磨 15

    「こちらにレンちゃんの父親を名乗る人物がおります」レンの担任の先生が琢磨と舞を案内したのは園長室だった。ドアの前に立つと先生は小声で言った。「男性はかなり興奮しているようなので気を付けて下さい」そして頭を下げると足早にその場を去って行く。「く、九条さん……」舞が不安げに琢磨を見る。「大丈夫です、私が一緒ですから」琢磨は舞を心配させないように力強く返事をした。だが……。(相手は父親だ……。そして彼女は定職についていないフリーターでましてや独身。裁判所に訴えられれば父親の方に有利に事が進むのは目に見えている。一体どうすればこっちが優位に働く……?)「あ、あの……九条さん。中に入らないのですか?」「いえ、すみませんでした。行きましょう」琢磨は一度深呼吸すると、扉をノックした。――コンコン「本田さんですか?」すると部屋の中から女性の声が聞こえた。「はい、そうです」「どうぞお入り下さい」琢磨はその言葉を聞き、扉を開けた。目に飛び込んできたのは部屋の中央にある長テーブルを挟み、向かい合わせにソファに座る2人の人物だった。右側には初老の女性、左側には……。「あ……お、お前は!」レンの父親と名乗る男は琢磨を見ると一瞬で顔を歪めた。「失礼致します、私は九条琢磨と申します。本日は本田舞さんの付き添いで一緒に参りました」琢磨は平然と挨拶をした。「本田舞です。遅くなりまして申し訳ございません」舞は頭を下げた。「お待ちしておりました。どうぞこちらへお掛け下さい」初老の女性は場所を移動し、琢磨たちの正面の椅子に座ると自分が先ほどまで座っていたソファを示した。「はい、失礼いたします」琢磨はさっそうとソファに向かうと座った。舞もそれに習い、琢磨の隣に座る。その様子をレンの父親は睨み付けるように見ていた。舞と琢磨がソファに座ると、早速男が口を開いた。「あんた一体何者だ? 言っておくがな……俺とレンは実の親子なんだ。息子を引き取りに来て何が悪い?」まるで酒にでも酔っているかのような乱暴な口調に琢磨は眉をしかめた。(何なんだ? この男は……随分乱暴な男だな……)すると舞が負けじと言った。「父親? ふざけないで下さい。貴方はレンちゃんの前でも姉に暴力を振るっていたそうじゃないですか? 子供の前で母親に暴力を振るう……それだってレンちゃん

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第3章 九条琢磨 14

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